甘い鳥を見つける

エマが甘い鳥を見つけた。俺は躁と鬱の狭間で寝込んでは暴れまわっている。このまま狂いそうな、俺はどこへでも行ってしまいそうな時、エマは甘い鳥を見つけた。


食べるまでもなくこの甘い鳥の鳴く際にたれる涎は俺が偽善でさえも愛であると思えるほどで、甘い鳥はあえて俺たちに見せつけていた。

布団から這い出たのは、その時である。いや、それまでは布団にいたというわけではない。俺はどこかにいた。どこかにいてしまっていたのだが、エマは常に近くにいて、甘い鳥を見つけることによって連れてこられたのだ、俺は。ああ、このまま、甘い鳥がいる場所に行けばよいのだろうか、わからない。それこそわかってしまってよいのだろうか、考えるまま、その場にいてしまった。それがよくなかった。だからエマは甘い鳥を見失い、俺は布団から這い出たところで止まっている。エマが甘い鳥をふたたび見つけるまで。

ファイアパンチ


ファイアパンチかまされた、漫画内映画に喜びを感じていた。天体的な交歓に、人体のあろうべき姿には火が必ず宿っていること、もしくは火をまとっていること、そして踊っていること、あるいは踊らされていること、これらを全て満たしている、というよりは満ちみちているものに、俺はどうにもならない煉獄を感じている。ああ、熱さとは滾りたらぬ。そうしていられるのだろうか。もうシャツが張り付いてそのまま、くっついてそのままになっている。



ジョナサン・リッチマン来る


ジョナサン・リッチマンが包丁を持って追いかけてきた。手拍子をしていて気持ちが悪い。俺はアコースティックギターを投げつけると、彼はエレキギターが良いらしく、投げ返してきた。the our lives...そう言ったのは彼だったか、それとも俺だったか、もはや彼と同化寸前まできていた俺は「来る」という言葉だけで全てを表すことが出来るんじゃないかと考え、岡田准一主演の同名タイトルの映画を見なかったことを後悔していた。



朝、目が覚めて何事もなかったかのようにパンを頬張っていると、聴こえるのは彼の声。俺はアンプに繋いだエレキギターを窓の外へ放り投げた。ほどなく耳元には、かったるいように爪弾くロカビリーチックなリズムギター、ああ刻んでいる。彼は俺を。遠のく意識の中、彼の唾が口に入ったことを確認した。



獣を退けるには


とんでもない臭気で目を覚ますと獣が俺にまたがっていた。東京帰りの疲れで幻覚を見ていたのか、それとも夜の裏側に来てしまったのか、俺には見当もつかなかったが、とりあえず詩を朗読して抗ってみた。しかし、事は大きくなるばかり。俺の右腕は食いちぎられていた、ジーザス。いやペーソス。俺の乳房は反対だけ光るんだ。


ポエトリーリーディングをしてみることにした。獣は多少怯んだが、それでも俺は左腕を食いちぎられた。愛をむき出している監督にカットをかけられたことを思い出した。俺は物凄い速さで両腕を動かしたせいである。ああ、その報いだ。


そしてギターを弾いていた。七尾旅人は子をステージに上げるが、俺は獣をステージに上げることにしたのだ。暴れ狂う獣は俺の両足を食いちぎるも、俺は音が常に鳴っていることに満足しながら言葉を発している。パティ・スミス、彼女のようなパフォーマンスにならないよう気をつけながら。

そして良きタイミングでギターを捨て、エマの言葉で朗読する俺がいた。童子返り。これこそが、相手に聞かせることだった。


階段のバックトランレイション


傘を拾い、道路に叩きつけて、ぶっ壊した。もう一本は襲われた時のために持っている。そんな状況をおかしく思うかもしれないが、俺は最早狂った果実、尖ったナイフと化していて、石原裕次郎なんかワンパン一発だろう。


病によって太った躰はこれから鍛える予定でいまは甘やかしている。実存主義レオナルド・ディカプリオ、超現実主義のホアキン・フェニックス、そして唯物史観を携えたジェイク・ギレンホールなのだ。

血は血で洗えず、正義はネット上での武器でしかない。そんな世の中に嫌気がさした俺は刺すような映画を作った。

『階段のバックトランレイション』一番純度の高い素潜り旬がいま、YouTubeで観れるから、観て欲しい。

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ふたり(以下または以上の)


樹々の肥やしになったあなたを、右頬をブツことで目覚めさせた時、俺は手に持ったスコップを自分に突き刺したのだった。


1
あなたの右腕はすでに使い物にならなかったから、俺は血でドローイングした。二度と動かないように。

2
家に連れて帰ると、何か話そうとしたあなたは、俺が現像したフィルムを見て、話すのをやめた。たぶん、言おうとしていたのは、こんなの。
反知性主義ってどこへ行ったの?」

3
サルトルが声絶え絶えに俺に告げたこと、あなたも知っておいた方がいいかもしれない。伝えたよ。
「創造なんて大袈裟さ、あんたが神になる瞬間があったってこと?」あーあ、俺は創作って言ったのにね。

4
ついに尽き果てたあなたは、事前に準備していたものを俺に渡した。数百枚のドローイング、詩、アフォリズム。全て燃やしてくれと。俺はそんなこと、今も出来ていない。実はこの文章も、あなたのものだってこと、皆に白状するよ。あーあ。

5
いや、どこまでが俺の文章でどこまでがあなたの文章なのかまでは、明らかにしない方がいいだろう。あなたに読まれては困るからね。



霊性と生成り


アニミズムのおかげで俺は助かっているのだけれど、こうも連続して指輪をハメ忘れることなんてない。どうやら俺は指輪をはめたいみたいだ。清志郎のごとく、とはいわず。セロニアス・モンクのごとく。の方が正しいだろう。では、


チャプター1 
生成りを全て燃やした後、この一帯に残ったのは河原町だけだった。つまりは木屋町を含むのだが、その通りです生存する唯一のポン引きに声をかけられる。「姉ちゃんいないですか?」俺は同情してこう言う。「もうどこにもいないよ」

チャプター2
生成りを燃やしたら、俺に残ったのは古びたzozoスーツ。この街を闊歩するには丁度良い。しかし俺は巡査声をかけられた。やべえ。捕まる。そう思った時には手錠をかけられていた。

チャプター3
連れていかれたのは常に既にボサノヴァがかかり続ける部屋。ジョビン以外の。俺は、ディストピアで流れる音楽はジョビン以外のボサノヴァなんだと確信を得て(というより体感、実感、経験?)、数日後に何事もなかったかの如く、清志郎のごとく、セロニアス・モンクのごとく指輪をはめて、生成りを見つけた。