ビーフ・アンド・ヴィシャス。我が友よ、冒険者よ。


いわゆるジェットセットのような人たちがサフランの媚薬的な効果を期待して、ひたすらにリゾットを食べている間、俺はエマをあやしつづけていた。ゲップをさせるために肩に塗ったアロマが、彼らの吐き気を誘発し、媚薬どころではない騒ぎになってしまった。オレンジ色の床に足を滑らせて皆転び、俺はそっとエマを落としてしまわないように、その場を離れた。

Yさんの実家に移動すると、山奥億夫がエマを抱っこし、過ぎた3時間に驚きを隠せないようだったが、実際は1時間しか経っておらず、TOKIOの歌みたいだと笑いあった。そう、例えて言えばロングトレインなのだが、長過ぎる車体が駅をまたいでいる。しかし、またがっていたのはナルシーという女性で学制服を着ていた。「過ぎるばかり言っていると馬鹿になり過ぎるわ。レーモン・ルセールが好きなのは分かるけど、彼はそんなこと言っていなかったし、とりあえずスポーツブランドのスリッパを履きなさい。流行っているの」

俺はすぐにドレスシューズを脱ぎ、ナルシーがブナッシーと呼ぶスリッパを履いた。山奥億夫はヴァージニアとキャスターマイルドを交互に吸いながら、ニヤついて言った。
ビーフ・アンド・ビシャス…我が友よ。冒険者よ」

700gのビーフステーキを細かく切り分けたあと、元の形に並べる作業に3時間を費やしていたナルシーは、冷めきったディナーを山奥億夫に食べさせるべく画策していたが、実際は1時間しか過ぎていなかったせいで、1時間分のことしかできなかった。そこで韓国のチョコパイの、日本製品より1.2倍増しのケーキ感を武器に俺とYさんはナルシーをクリームまみれにしたが、山奥億夫はマジックソルトを夢二の天ぷらに振りかける作業に没頭しており、「ひやむぎのような素麺」はすべて彼に降りかかった。エマはずっと寝ている。

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