エマの世界


子どものために何かを我慢するのは容易いが、子どもの何かを我慢するのは辛い。煙草だって映画だって本だって我慢できるが、エマの初めての〇〇が見れないっていうのは、なかなか辛いものがある。既にいくつか逃していて、それをいちいち気にしていては、ずっと家にいなくちゃならないが、一家の稼ぎ柱として外に出なくてはならない。

外に出れば、外の世界が広がっていて、家の中には中の世界が広がっている。どこからどこまでを線引きして空間と呼ぶかは人それぞれだが、世界だってそれと変わらない。狭いもので言えば『ドアーズ/まぼろしの世界』で広いもので言えば「セカイ系」だろうか。

「ここで『mood indigo』(デュークエリントンアンドヒズオーケストラ)が流れてくる」

俺の肩には赤ちゃんがミルクを飲んだあと、ゲップがうまく出るようにアロマが塗ってある。だから帰りの電車で寝ぼけた婆さんが俺の肩にもたれかかってきた時は、ヤバいと思ったんだ。


婆さんはゲロを吐きながら、婆さんの幼児退行プレビューを眼から出した。

彼女は誰かの子であり、誰かの母であり、誰かの祖母である。人は、みんな誰かの誰かだって気付いたら何でも許せてしまうような気がする。

ジム・モリスン「ソウルキッチン(そうだとも)」

だけど俺は三船敏郎に転身し、婆さんを斬ったってことを伝えておこう。

ジム・モリスン「ライトマイファイア(なんじゃそりゃ)」

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